レッスンで大切にしているのは、「できるだけ聞き手に馴染みのある、日常的な言葉を使うこと」です。
ゴルフの専門用語は、経験の浅い方にはピンとこないものが多いですよね。
ですから、私はできる限りわかりやすく、日常の言葉でお伝えするようにしています。
私自身の性格を一言で表すと、「自分で検証しないと納得できないタイプ」です。
ゴルフ理論の世界では、毎年のように新しい考え方が登場しますが、私はまず「本当にそうなのかな?」と、少し懐疑的な目で見る癖があります。
そのため、新しい理論を受け入れるまでに少し時間がかかることもあります。
――単に素直さが足りないだけかもしれませんが(笑)。
キャリアの前半は自分自身のスキルアップに注力し、後半はコーチの育成が中心となりました。 その中で常に心がけているのは、「相手の知識を確認して話すこと」です。
人に何かを伝えるとき、これはとても大切なことだと思っています。
さらにもう一つ意識しているのが、「ストーリーを交えて伝えること」。
有名人や自分の体験談に重ね合わせながら話すことで、聞き手の共感を得やすくなり、内容がより深く伝わると感じています。
今回もそのスタイルで、少し私の体験を交えながらお話を進めさせていただきます。
ゴルフとの出会いと学び 私がゴルフを始めたのは18歳のとき。高校を卒業してすぐにゴルフ場へ就職しました。 令和の今から見れば、まさに“昭和のゴルファー”です。
ところが、最初に内定をもらったゴルフ場は、入社直前に事実上の倒産。
急遽、別のゴルフ場に移ることになりました。 そこでは所属プロの指導のもと、朝晩と練習を重ねていましたが、思うように上達せず、行き詰まりを感じていました。 そんなときに出会ったのが、メンバーのOさんという方でした。
とても面倒見の良い方で、来場のたびに夕食をご馳走してくださるような温かい人でした。 何度か一緒にラウンドを重ねて親しくなったある日、思い切って悩みを相談してみました。
内心は「怒られるかもしれない」とドキドキしていたのですが、返ってきた言葉は予想外のものでした。
「喜田くん」 「ゴルフ場のプロっていうのはね、ピンキリなんだよ」 「プロになりたてもいれば、賞金を稼ぐプロもいる」 「どうせ教わるなら、シード選手から学びなさい」 「そもそも賞金を稼ぐ人が、どんな練習をしているか知らないでしょ?」
この一言は強烈に印象に残りました。 当時の私は20歳になったばかり。まだ昭和の体育会系の気風が残っていた時代です。
「大した努力もしないで生意気言うな!」と叱られる覚悟でしたが、 Oさんの言葉はむしろ冷静で、広い視点からのアドバイスでした。 今のように検索すれば情報が手に入る時代ではなく、当時は良い情報や環境に巡り合うこと自体が難しい時代。 だからこそ、良い環境に身を置くことの価値を強く感じました。
Oさんの紹介で、有名シード選手が在籍する「ザ・鹿野山カントリークラブ」(当時の名称)を紹介していただき、 話はトントン拍子に進み、すぐに入社が決まりました。
そこで本格的にゴルフの基礎を学び、現在の自分の礎ができあがりました。 環境の大切さ よく「環境のせいにするな」と言われますが、私はそうは思いません。
これは人のせいにするという意味ではなく、最低限の環境がなければ上達は難しいという事実です。 あのまま環境を変えずに練習を続けていたら、今よりも確実に遠回りをしていたでしょう。
だからこそ、皆さんにも伝えたいのです。 練習環境を整えること。 そして、良いコーチを選ぶこと。 これが上達への近道だと、私は確信しています。
実践力という考え方 私が運営する「ゴルフォートNY」では、ゴルフ上達を望む皆さまに、 **「最短でゴルフの目標を達成する」**お手伝いをしています。
そしてそのスキルを私は「実践力」と呼び、次の5つの要素を意識した練習を提案しています。 現状を知ること 基準を知ること 練習方法を考えること 良い習慣が身につくように練習すること 必要な環境を整えること よりシンプルにまとめるなら、こうなります。
① 知る(環境を整える) → ② 考える(環境を整える) → ③ 行う(環境を整える)
この3段階それぞれで、必要なサポートを提供するのが私のコーチとしての役割です。
コーチングのあり方 レッスンではまず、生徒さんの「考え」や「感覚」を丁寧に引き出すことを大切にしています。
その上で、こちらから伝える内容については、伝え方に工夫を凝らします。 たとえば、考えや感覚を引き出すには適切な質問力が必要です。
また、動きを言葉で説明するには、生徒さんがどのようにゴルフのモーションを「感じているか」を確認しながら進める必要があります。
このような共通認識づくりには時間と労力がかかります。 しかし、それを惜しんでしまっては、本当の意味での上達をサポートすることはできません。
モチベーションの維持や成果の確認といったサポートも行いますが、 こうした積み重ねこそが、私の考える「実践力レッスン」の根幹です。
再びOさんの話に戻ります 先ほどお話ししたOさんとの出会いには、実はもう一つ印象的な出来事がありました。 それは、履歴書を提出したときのことです。
私はあまり深く考えずに、かなりいい加減な内容の履歴書を出してしまいました。 Oさんはそれを見て、こうおっしゃいました。
「喜田くんね」 「もう社会人なんだから、最低限のことは覚えなきゃダメだよ」 「履歴書はもっと丁寧に書きなさい」 「写真も貼ってないし、これじゃ普通は見てもらえないよ」 本当にその通りでした。 当時の私は、指摘していただくまでそのことに気づいていなかったのです。 そこで私はすぐに書き直し、再提出しました。
Oさんは「じゃあ、これで出しておくから」と言ってくださり、 その後は驚くほどスムーズに話が進みました。 この経験から学んだこと この出来事を通して私は、 相手の間違いを指摘する前に、その人が「基準」を知っているかを確認する という習慣が身につきました。 基準と現状を正しく理解できれば、 そのギャップを埋めるために「考え、行動」することができます。
これはまさに、先ほどお話しした「実践力の行動スパイラル」そのものです。
① 知る → ② 考える → ③ 行う そしてそのすべての土台にあるのが「環境づくり」です。 この考え方が、私のレッスンの根本にあります。
ゴルフの基準について 最後に、私が考える「ゴルフの基準」について触れておきます。
ここでは概要をかいつまんでご紹介しますが、全体像をつかむ助けになれば幸いです。 私が常に意識している判断軸(つの視点)は、次の5つです。
①平均値
②共通点
③フィジカル
④ギア
⑤データ
1. 平均値
これは日本プロゴルフ協会(PGA)のティーチングメソッドに基づく考え方です。 平均的な骨格や年齢をモデルにした「標準スイング」を基準とします。 PGAの資格を持つプロは、この理論をレッスンのベースにしています。 私自身も資格取得の際に徹底的に学びました。 余談ですが、「ティーチングプロ」という名称はPGAの登録商標であり、資格を持たないコーチは正式には使用できません。
2. 共通点
こちらはスイングプレーンを用いたスイング解析です。 スイングプレーンとは、ベン・ホーガンが提唱した概念で、ご存じの方も多いと思います。 スイングを飛球線方向から撮影し、ボールと首筋を結んだ線を引きます。 これに、アドレス時のシャフトの傾き、そして前傾姿勢を表す背骨の軸線を加え、合計3本の線で解析します。 この3本の線があれば、身体とクラブの動きを明確に確認することができます。 もちろん正面からの映像も合わせてチェックします。
3. フィジカル
スイング作りを身体の機能面から考え、理想と現実のバランスを取ることも大切です。 骨格、筋力、柔軟性を考慮し、トレーニングを通じて機能改善を行いながらスイングを作ります。 言い換えれば、プレーヤーは常に自分の身体と対話する必要があります。
TPI(Titleist Performance Institute)の資格を持つ目澤秀憲コーチが注目されているのも、 関節可動域を重視した体系的なチェック法が確立されているためです。
タイトリスト社が長年にわたり蓄積してきた膨大なデータを基に構築された理論体系といえます。
4. ギア
クラブフィッティングに関しては専門分野ではありませんが、 これまでの経験から一通りの知識はあります。 まず、フィッティングには弾道解析器が欠かせません。
そして、ヘッド・シャフト・グリップなどの膨大な組み合わせの中から最適解を見つけるには、 豊富な経験と製品知識が必要です。 メーカー担当者であっても、自社製品以外を含めて責任あるアドバイスを行える人は多くありません。
また、フィッティング理論もまだ統一的なものは存在しません。 スイング作りの段階では、クラブの重さ・シャフトの長さや硬さ・ヘッド形状・ライ角・ロフト角・グリップなど、 基本的な要素を最小限に整えることを意識します。
10年以上前のクラブを使用している場合は、安全性の観点から買い替えを提案することもあります。
5. データ
これは現代ゴルフの最大の特徴です。 弾道測定器の普及によって、ゴルフ界は大きく変わりました。
ゴルフォートNYでも「FlightScope Mevo+」を使用しています。 測定項目は以下の通りです。
ヘッドスピード ボールスピード ミート率(上記2つから算出) バックスピン/サイドスピン(Dプレーン理論では軸傾き) 入射角 インパクトロフト クラブパス 打ち出し角 など 特にドライバーの飛距離を追求する際は、 「ボールスピード」「打ち出し角」「バックスピン量」の3つが鍵となります。
多くの方はスピン量が多くなる傾向があるため、 打ち出し角を一定に保ちながらスピン量を減らすことがポイントです。 まとめ ここまで5つの基準について簡単にご紹介しましたが、 スイング改善にはこれら複数の視点が密接に関わっています。
スイング作りとは、まるでピース数の多いパズルに挑戦するようなものです。 パズルには完成図がありますが、ゴルフスイングには「唯一の完成形」は存在しません。
設計も、組み立ても、すべてが自由なのです。
だからこそ、ゴルフは年齢や性別を問わず、多くの人に愛され続けています。 皆さんも、終わりなき旅路の中で、自分の羅針盤となる「正しい考え方と視点」をぜひ身につけてください。 最後までお読みいただき、ありがとうございました。